英語猫

本以外を読むために、本を読む

英検1級前後レベルの単語帳7冊と順序(素案)

 

(この記事は『A rude awakening / 英単語の勉強法について - 読書猫』の続きとして書かれていますが、単体でも読むことができます。)

 

◆◇◆ 英単語帳の紹介とその順序

 

言語習得の学習事項は『「単語の意味は文脈から推測できる」という主張の反例 - 読書猫』の「尻込み」の例にあるようにまずは英単語に集中しています。

ソローキンの『青い脂』という前衛的な文学小説では原著者が「途中に出てくるXXという単語は僕の造語で、意味がないんだ。だから言葉の持つ神性をはぎ取ってはならない」みたいなことを平気で言ってますが、そのような気ままな言語遊戯の世界はまだまだ先の先の先の先ということです。

具体的には以下の過程を踏みましょう*1

  

 

1. 生協でEX-Word 6の最新版を買います。3万強しますが50万くらいの価値があると思います。4年間の戦友になります。外国語モデルは自分の第二外国語で良いでしょう。PC用の辞書などを採用するのも手です。*2

 

 



2. 1100 Words You Need to Know』をやって英語力の無さに絶望します。

 

                                1100 WORDS YOU NEED TO KNOW

      

絶望したところで挫折して構いません。あくまで自分の英語力ではネイティブの高校生が使う英単語帳すら読み解けない、覚えるよう指示された単語以前にヒントとして提示された単語すら知らないということを実体験から痛感するための過程です。この単語帳にはあとで戻ってくることになります。いつ戻ってきてもいいですよ。何回も挑戦して挫折して絶望しとくと実感が強まりますし、数十ページぶん進めておくと実際にこなす段階になったときにスムーズに入れます。


3. 1100wordsのことは忘れて『英検1級語彙・イディオム問題500』を解きます。4択問題を合計500問載せている本です。左ページに問題、右ページに解答解説、巻末に全ての選択肢の訳語という単純ながら使いやすい構造になっています。1日30問目安(30分程度)で3週間弱もあれば終わります。この記事で紹介する本の中では作業の基準が最も明確で最も挫折しにくい本です。答えの選択肢以外の単語も覚えていってください(後半の問題で何度も登場するようになっています。)

 

4.Instant Word Power』に切り替えて1~2か月でこれを最後までやり通します。身に付く語数は少ないですがラテン語の語源知識が漢字の部首のように思えてきて、暗記に役立つと実感できるはずです(この本をやる過程ではOnline Etymology Dictionaryが役立つはず)。その後は『新英和大辞典』などの項目末尾にある語源を読むべき場合なども分かってくるはずです。

 

そして何よりこの本が僕が知っている洋書の英単語帳の中で恐らく一番挫折しにくく、洋書を一冊通したという事実は自信につながります*3


5. TOEIC Test 900点突破必須英単語』を半年程度でほぼ暗記します。「譴責」「戒告」「告発」「公使」などの日本語が訳に出てきますので国語辞典と首っ引きでしょう。800単語が語法付きで身に付きます。僕はこれを受験の時にほぼ暗記していました(例文除く。二次英語は96/120だった)。すなわち僕の場合は少し特殊で、4.のINSTANT WORD POWERより前にこちらを終わらせていました。これは特に最初の半年間は他の本を併用せずにずっと集中的に読んでた覚えがありますが、ものすごい重い足を力づくで前に動かすような辛さをずっと感じていた覚えがあります。

今見直すとこの本は英和辞典よりも説明的な訳語がいくつか含まれています。19番のreconcileは「あきらめて受け入れさせる(他の辞書だと「甘んじさせる、黙って従わせる」とか、71番のtrudgeは「重い足取りでとぼとぼ歩く」とありますがこれはちょうど英英辞典の語義説明を訳したものに相当します。

 

読める人にはニュアンスが分かり有益ですが、慣れてないとreconcileの上位概念が「従わせる」であり含意が「嫌なことに対して」だということ、trudgeの上位概念が「歩く」であり含意が「疲れている」だということに反応できず、進めば進むほど訳語を見たときの違和感が蓄積していきます。

 

英語辞書をフル活用する7つの鉄則』の1-5.「英語辞書における関連語とは?」を先に読んで、階層を理解するためだけに英英辞典を適宜引くほうが、内容がクリアに掴めるかもしれません。この本は他の話題が多すぎるので、その引き方についてだけ別記事『英英辞典の裏技的な読み方 / 発想元:『英語辞書をフル活用する7つの鉄則』 - 読書猫』にまとめました。もちろん英英辞典でなくても国語辞典で上位語(ひまわりなら花、花なら植物、植物なら生物)が分かれば問題はありません。

 

ここまでで覚えた単語は後々に(特にVerbal Advantageを使う際に)減速しないための布石であると考えてください。本を読むのが早い人は、読んでいる本のなかに既知の情報が多いから早いだけなのです。


6. ここまでを時間がある大学1年生のうちにこなしてください。

7.  iPhoneアプリのSuper MemoのExtreme English 8が無料で1000単語学習できるので3か月強で仕上げます。Super Memoは癖があるので、間隔反復の理論を取り入れたソフトであれば何でも構いません。とにかく、がむしゃらにやっているだけでは忘れる量に対抗できないことを認識し、何らかの現実的な対策が復習に必要なことを認識してください。僕は暗記用に歯磨き場近くに壁を作りました(これを読んでいる後輩は、僕の部屋に来ればすぐに分かると思います)。使っている透明用紙はこれです。

 

(2014/04/15 追記:  友人の勧めでAnkiを使い始めましたが、これは単語帳の体を成していない教材(エッセイや辞書、ネイティブが添削した文章など)で覚えたい表現を覚えるのに向いています。読む系の単語帳と併用してみてはどうでしょうか。)


8. Verbal Advantage』を読みます。上記の単語帳と重複が多くてニヤリとできます。こういう読む系の単語帳は上のような問題集系の単語帳の後のほうがよいと思います。


9. 『1100 words you need to know』に再挑戦し、死ぬ気で最後までやり通します。こいつが中ボスです。途中で誤植が大量に出てきても泣かないでください。学習書で誤植のないものはありません。そいつが誤植もしくは著者の誤解だと根拠付きで指摘できる実力を育てることが目的です。

10.Word Power Made Easy』を死ぬ気で最後までやり通します。こいつが上級英単語のラスボスです。上述した「最高難易度・最重要の」単語帳だと思って下さい。ここからは熟語や語法などの話に移っていきます。


11. ここまでを大学2年生の2月~3月までにこなしてください。


以上がネイティブの大学生程度の基礎語彙を身に着けるための必須作業だと僕は思っています。これだとスラング(dollで「かわいこちゃん」)や文化・宗教語彙(Genesisで「旧約聖書モーセ五書の1つである創世記」など)やコロケーション(public policy「公共政策」やhealth care system「医療制度」など)が足りなさすぎるのですが、それらを覚えるための道が僕にはまだ作れません。僕は英検1級保持者ですが語彙力はネイティブの中学生以下だということをつくづく実感しています。

 

なお怠惰な学習者なため、4年生になった今も8.で止まっており現在死ぬほど後悔しています。本当はここまでの作業を2年次までに終え、3年次からは『口語英語大辞典』などでイディオムを覚えたり主張(arguments)の構築法に集中できるようにすべきだったのです。東大生は時間があるのは前期課程の間だけだと認識していて下さい。忙しい学科に所属している理系学生に聞けばその話はいくらでも聞けると思います。



以上はすべてとある先輩からやるように指示され、一部は仕上げ、一部は挫折し、一部はいま挑戦している単語帳です。ちなみに、僕はもう1人英単語をネイティブが引くぐらいに徹底的にやったという先輩からお話を伺ったことがあるのですが、その先輩は英検1級レベルまでの日本語で書かれた英単語帳を10冊やったようです。しかし、『TOEIC900点突破必須英単語』以外はまったく共通していません色んな歩の進め方があるということだと思います。そちらのほうが合うという人も多いかもしれません。

 

◆◇◆ 途中まで進めた段階での反省点


反省点としては、どうして指示された問題集だけで学習を進めようとしてしまったのか、自分で追加教材を用意して階段状にそのレベルまでたどり着く工夫をする(大著の内容を小さな本たちで噛み潰す)工夫をしなかったのかというところです*4

 

性に合わないからとかこんな単語は必要ないからとか下らない理由を付けて自分が読み解けない英単語帳から目を背けてしまった。これが一番の大失敗でした。

 

◆◇◆ その他の参考書とまとめ 

 

また、順序では音声学などについて一切の教材を紹介していません。松坂ヒロシの『英語音声学入門』を拾い読みして城生佰太郎 の『一般音声学講義』の記述と繋げていた記憶が微かにあります。他は現在も試行錯誤中で何も紹介できることはありません。

 

EX-wordに含まれない辞書で個人的に使っているのは

新明解国語辞典 第7版』
三省堂国語辞典』
ウィズダム英和辞典』
『コウビルド英英』の4つのiPhoneアプリです。
これらのうち新明解と三省堂は、大辞林で納得できない語義が出てきたときの信憑性の拠り所になります。

 

 

以上の英単語帳(もしくは代替となるレベルの英単語帳)に向かうのか、それとも  1回5分から聞き流すだけ!ある日突然、英語が口から飛び出した なのかは皆さんの自由です。

 

 

 

【質問がありました】

 

●英語を勉強する理由は何ですか?

 

短期的には留学を考えているからです。
でも留学しなくても英語はやり続けると思います。

長期的には英語で世界を分ける感覚を経験してみたいからです。
全く実用的な目的ではなく個人的な自己満足です。

 

英会話したいという欲求は最初は全くありませんでした。ただバイト先で外国人の質問に全然答えられなくて最近は少し興味が湧いてきました。

*1:(注意:

具体的には、と書いておきながら実際には教材の順番は適当です。僕は変な学習の仕方をしており基本的に途中で放置されている教材だらけで学習の順番を箇条書きでは伝えられないのです。やり始めてから寄り道しまくって実際に終わったのは2年後みたいな教材がかなりあります。

ただし

『TOEIC900』をVerbal Advantageの前にやること
Word Power Made Easyの前にINSTANT WORD POWERをやること

は確実です(難易度が明確に違うため)。別のもっと使いやすい教材があるかも分かりません。自分で階段を作るなり寄り道を作るなり道を整備していって下さい。)

*2:

●高校用の電子辞書では用が足りなくなるのですか?と質問されました。 

 

確実に足りなくなります。EX-word DATAPLUS 6、もしくはSIIの生協モデルを買うべきです(後者はバックライトがない、起動と入力反映が遅い、しかし『ランダムハウス』が入っておりパソコンに接続しても使えるなど玄人向きです)。僕はS II でずっと過ごしてましたが偶然にとある教授から2万円で新品のEx-wordを譲って頂き併用しています。

 

具体的に何が足りなくなるかというと、EX-wordとS II で共通する辞書について挙げるなら以下の2つです:

 

『英和活用大辞典』…『英語のあや』という本のどこかに、この辞書は編者が50年かけて多数の洋書から合計で数万の表現を抜き出して作ったものだという記述がありました。それは決して誇張ではなく、『ランダムハウス英和大辞典』『新英和大辞典』『リーダーズ英和辞典』のどれにも全く例文の載っていない単語の用例が大量に載っていたりします。日本語が読める学生であれば訳例や連語の参考としてぜひそばに置いておくべきです。

 

新和英大辞典』…和英辞典は別に英語書くわけじゃないからいいよ、と思うかもしれませんが単純に英日翻訳するときにも役立ちます。たとえば星霜(せいそう)はyears, timeと訳語が出ていますがこれは逆に言えばyearsという英語を星霜という古風な表現で翻訳することも場合によっては可能ということです。このような置換は、yearsと星霜という2単語の距離が遠すぎて自分の頭だけでは思いつけないと思います。ちなみに僕はこの辞典を一時期は国語辞典の代用として使っていました。

 

上記の2冊は書籍として揃えようとするとアマゾン新品価格で35,000円強しますので余裕でEX-wordの価格を超えます。と言っても新和英大辞典はブックオフでしょっちゅう売ってますので価格は参考にはなりません。

 

それと、高校時代に使っていたEX-word DATAPLUS 4自体は今でも毎日使っています。動作が軽快なので、ほぼジーニアス英和とロングマン英英の専用機として使ってます。あと山川世界史・日本史の用語集が入っているので、高校生が何を知っているのかを確認するときに使ったりしてます。と言う風に役立つので、一人暮らしする際は自宅に持っていくことをお勧めします。

*3:Instant Word Power ... この単語帳はあまり普段使わない単語が混じってないかという指摘を受けたので、こんど少し調べます。

*4:英単語帳をやる上での工夫 … 上記では7冊ほどの英単語帳を紹介したが、結構な大冊(特に1100)もあるので、いろんな小さな本の情報と比較対照collationして余白に書き込んだりしながら少しずつ内容を既知のものにしていくことが大事。書いてある内容の順番や、指摘されている内容に留まらないこと。単語帳の癖に書いてある説明だけでは理解が完結しないことなんて多々。また、語源なんて信用のおけないものを暗記する必要は全くない。覚えるための便宜にすぎない。